歯科医の苦境は何を物語るのか?

歯科医の苦境は何を物語るのか?


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多くの人の想像の中では、医師はとても裕福な暮らしをしているということになっているだろうが、貧乏に耐えながら職務に当たっている医師が驚くほど多いのが実際のところである。自己破産や廃業、場合によっては借金を苦にして自殺に至るケースもある。

 

完全なる二極化が進んでいるのが、歯科医師業界だ。「ウハクリ」と呼ばれる、ウハウハな程儲かっているクリニックは全体の5%に過ぎず、いつ潰れてもおかしくないクリニックは全体の95%に上る。歯科医は、今や儲からない商売の代名詞的な存在にすらなっている。

 

歯科医の苦境は何を物語るのか?

 

患者の数が頭打ちであるにもかかわらず、毎年確実に医師の数が増え、供給過剰が極まったがゆえに歯科医は儲からなくなった。勤務医が不足しているのは確かだが、こと歯科医に限っては数に余裕があるというおかしな状況が生まれています。

 

歯科医師が毎年確実に1500人のペースで増加すると2004年度の厚労省の調査によってわかっている。その一方で、96年の推計130万人をピークに患者の数は減少し続けている。サービスや技術力(所謂競争力)を十分に備えていない歯科医が淘汰されていくのは当然のことで、廃業ラッシュや社会問題化が近い将来に起こるのではないかという懸念もある。

 

であるにもかかわらず、新規開業を行う歯科医は後を絶たず、反対に加速をすら見せている。歯科大学の定員数は少子化の中にあっても減少することなく、卒業生は全国で毎年3000人以上を数える。こうした卒業生のほとんどは後に国家試験に合格し歯科医の免許を取得し、勤務医として既存の病院に務めることになる。

 

月給に関しては決して高くなく(むしろ安い)、10〜15万円で働いているというケースも多く見られる。転職しては…?とつい考えてしまうが、彼らは1〜2億円を使って歯科大を出ているため、そもそもの選択肢に歯科医以外への転職など浮かばないのだ。

 

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こうしたこともあって、経営スキルも技術もない医師が開業を次々と行っているのである。歯科医師たちの置かれている厳しい状況を象徴するのが2006年に発覚した歯科医の架空リース事件である。

 

総額で約40億円の医療機器のリース契約をNTT東日本の子会社であるリース会社と約70人の歯科医師が結んだが、リース会社と歯科医師を仲介した会社が上記の金額をそっくりそのまま着服したため、ほぼ全額の回収が不可能になったという事件である。

 

代金の着服を行った会社は、経営難に陥る歯科医に、「架空の契約で機器の購入も実際にはしない、そうして浮いた代金の7割を融資する」と持ちかけたそうだ。しかし、先ほどの通り融資は実施されず、代金も着服された。

 

 

こうして見ると医師は被害者にも映るが、架空のリーズ契約を金銭を目的に実行しようとした責任は問われてしかるべきである。この事件は、3割という法外な手数料を歯科医側が支払うことを承知の上で違法な行為に及ばざるを得ないほど資金的に苦しい状況にあり、また、そうした苦境につけこめるだけの情報を持った詐欺会社が存在することも明らかになった。

 

この事件からは、もう一つの歯科医師業界を取り巻いている経済的な環境の悪化を見て取ることができる。それはなにかというと、歯科医は基本的に銀行からの融資を受けられないという点だ。債権回収が困難だということは業界の人間であれば誰もが知っていることだ。

 

こうしたことがあるために、中小のノンバンクから歯科医は資金を借りており、15%以上もの金利で、さらにはそこに手数料が加わる場合もある。これは、一般のサラリーマンがお金を借りる際と同じ金利水準である。

 

 

借金に苦しみ、自動車操業に手を出すことになるサラリーマンと同様に、歯科医が経営難に陥り高金利のお金を借りるわけだが、当然ほとんどの場合にうまくはいかない。診療報酬の改定は歯科医の経営難に追い打ちをかけることとなった。

 

診療報酬の上乗せを要求しているのは歯科医の99%だ。厚労省側も当然こうしたことを承知しているが、レセプトが電子化されたことによって、事実上は上乗せ請求ができなくなった。診療報酬は当然ながら下がる一方だ。

 

斉藤毅氏(日大名誉教授)を座長とした厚労省の検討会は2006年に、国家試験の合格基準を引き上げるとともに、大学の歯学部の入学定員を削減し、歯科医の新たな養成数を毎年少なくとも1割程度減らすよう提言する報告書を発表した。

 

 

歯科医がこのまま増え続ければ専門医としての魅力は下がり、質の低下した歯大入学者が増え、未熟な開業医が増加することで利用者にも害が及ぶ、と同検討会は指摘しているが、こうした懸念はすでに現実のものとなっているのである。

 

過剰な歯科医数が歯科医の苦境の原因になっていることは明らかだ。過剰な歯科医師数も医師数の不足も国が無理にコントロールしようとするところに原因があるのではないだろうか。



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