危ぶまれる勤務医の卒業と流出

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医療の現場がこのまま荒廃し続ければ、現時点でさえ少ない医師が国内に去ってゆくということもあり得る。若い医師が医療改革の末に誕生しても、皮肉なことにそうした医師は米国を目指すことも多いのである。

 

勤務医をやめて開業医になる医師がなぜ多いのかという問題を解決するためには、両者の関係を理解する必要がある。そこで重要になるのが医師のキャリアパスである。肉体的なこともあって、勤務医は40歳を過ぎるとその職務を継続できなくなる。

 

危ぶまれる勤務医の卒業と流出

 

多くのこの年齢の医師が開業医になったり、市中病院の管理職になったりするのには年齢の問題があったのである。つまりは、勤務医から「卒業」してフリー(=開業医)になり、第2のキャリアバスを歩み始めるのである。

 

「白い巨塔」の中では、熾烈な競争が教授の座を賭けて行われる風に描かれているが、大学教授になる医師の数は絶対数ではとても小さなものだ。医師の不足や医療の高度化という問題も絡んでいる。外科手術における麻酔や手術、輸血や術後の管理などはかつては全て外科医が担っていた。

 

 

だがしかし、研究の進歩が各分野で起こり、すべての分野の最先端の技術を1人の医師が身に付けることはできなくなった。その結果、こうした分野にはそれぞれの専門の医師が登場し、高度な医療を求める時代が訪れた。

 

こうしたことは何もわが国だけで起きているわけではなく、欧米においても同じことが言えるのである。これまでは、病院に務める勤務医がこうした高度医療を担ってきた。機械化や自動化が臨床検査などの一部の分野において進んできたが、専門医の労働に依存してきた診療分野も多くあるため、病院としては専門家を多数そろえる必要に迫られた。

 

高度医療を担う若い専門医の養成はこうしてはじめられた。一県一医大制度がこうした専門医の大量養成を可能にした。年間の医師養成数はこの制度の下で4000人増加し、新設された医大から卒業した医師は多く勤務医として働いたため、毎年4000人というペースで勤務医の絶対数が増加し、病院における高度医療化の担い手となった。

 

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ところがだ、この新設医大の卒業生の世代が平成10年代の半ばごろに40代中盤に差しかさしかかり、次々に勤務医から卒業した。引退するものと卒業するものの数がほぼ同数であるわけだから、勤務医の数が増えるということはなく、増加していったのは勤務医を終えた世代の医師たちである。

 

厚労省は、毎年4000人のペースで医師が増えているため、医師の不足は将来的には解消すると言っていたが、上記のような現実を踏まえるとこうした説明は決して適切ではない。正確に言うのであれば、毎年4000人増えているのは壮年以降の医師であり、こうした状況下では勤務医不足が解消する目算は立たない、となるはずだ。

 

病院を受診したいという国民の要求に、絶対数の不足した勤務医数で応えるには、平均で週に70.6時間勤務医が働き、若い世代ではこれよりも10時間近く多く働く必要がある。こうしたことを踏まえてみると、医学部の定員を佐最大で8.6%増やすという政府の検討案はほとんど効果のないものだということが分かる。

 

 

医師として一人前になるには多くの時間が必要となるということも考えなければならない。官僚主導による現場知らずの医療行政がこのまま続いていくと、医療制度改革が仮に功を奏して一人前の医師が大量に生まれたとしても、その際には我が国国内で勤務するのではなく、米国を目指す医師が大幅に増えることになり、日本の医師不足問題は解決されないままということになるだろう。

 

医学交流セミナーを留学をテーマに開催している野口医学研究所では、急速に申込者が増加し、06年には3年前の1.5倍となる152人が申し込みを行った。医学生や医師の中で優秀なものはネットで情報を集め、その眼を海外へと向けている。こうしたセミナーの主催者は、米国を目指すのには3つの理由があるという。

 

 

1つが充実した臨床教育だ。我が国では、先端医療機器を使用する場合などに患者向けの医療過誤に関する書類を書いている時間が、実際に医療に携わっている時間よりも多いが、米国においてはメディカルクラークがこうした職務を担うために、医療に専念できる時間が十分に確保できる。

 

さらに、待遇の面でも日本とは桁違いに優遇されます。環境や教育についても米国と我が国では大きく異なるが、待遇の面でも日本の勤務医の報酬は米国の一般的医師の報酬の2分の1程度となっている。

 

 

外科の場合にはさらに差が開いており、3〜10倍にまでなるそうだ。ただ、これは一概に言えることではなく、キャリアによって同じ職場で働いていてもその収入にはバラツキがある。だが、我が国のように、同じ手術をした際に新人医師でも名医でも診療報酬の点数が同じということにはならない。

 

稼ぎが特に良いとされる腕の立つ医師になると、自らのオフィスを構え、大学病院との契約等で高額な収入を得ることができるのが米国の場合である。ネット等でこうした実情の差を知った若い世代の医師は、優秀な人材であればあるほど我が国の現状を嫌って米国へと流れ出ている。こうした事態が放置されているようでは、日本の医師不足は永遠に解消されないであろう。



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