緊急医療の受け入れ現場で何が起きているか

緊急医療の受け入れ現場で何が起きているか


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現在では、出産の大多数を占めているのは正常分娩である。ではなぜ、各県にNICUをはじめとした高度な新生児医療設備を備えた3次施設が必要なのだろうか。実はこの背景には、毎年ハイリスク児が出生全体で約9%生まれているという現実がある。

 

世界の中で最も低い新生児死亡率を、この10年間維持し続けてきたのが我が国であり、結果的には世界一の平均寿命を誇る国となっている。いうなれば地域の周産期医療周産期医療砦となっているのが3次施設であり、この施設には1次施設及び2次施設では処置や受け入れが困難な新生児や妊婦のすべてが搬送されてくるのだが、もしもNICUの満床や夜間当直医の不足などの問題があり受け入れが難しい場合には、必然的に妊婦を県外を含んだ別の3次施設へと搬送することになる。

 

緊急医療の受け入れ現場で何が起きているか

 

妊婦のたらい回し」と呼ばれた、2007年の8月に奈良県で起きた事件は、妊婦が奈良県内から救急搬送され、同県の病院や大阪府の病院を合わせて9つの病院で受け入れられず、救急車内で試算したという事件である。

 

その後も3つの病院から受け入れを拒まれたという過程もあった。この背景には当該妊婦が、定期健診を受けていなかったという事実があったわけだが、上述の3次施設を持たない奈良県でこうした事件が起きたということは、大変な不運であったと言わざるを得ない。

 

この事件の発生する前年には、大淀町立大淀病院(奈良県)において分娩中であった妊婦が意識不明となり、同県及び大阪府の病院に転送を試みたが合計で19の病院に拒まれて、最終的には国立循環器病センター(大阪府吹田市)に搬送されたがその8日後に妊婦が亡くなるという事件があった。

 

テレビを中心に大きく報じられたこの事件を、ご記憶の方も多いのではないだろうか。ちなみに、上記の妊婦から帝王切開で生まれた男児は、2013年8月の時点で7歳になった。掛かり付けの産科医がいなかったことが主な原因で、奈良県のケースでは女性の正確な容態が搬送要請先の各病院に伝わらなかった。

 

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和泉市にある大阪府立母子保健総合医療センターは、転送拒否の理由を以下の様に説明している。「当該女性が妊娠3か月というのが当初の情報で、死産が恐れられる出血中であるとは聞かされなかった。仮に出血の具合などの正確な情報があれば違った対応ができていた」所謂「飛び込み」と呼ばれる産科での受診歴のない女性が搬送されるというケースが全国的に増えてきている。

 

トイレで倒れた女性が搬送される救急車内で妊娠中と発覚したという事例も報告されている。こうした例が一般救急の中でも起こり得るということを考慮した搬送のシステムを構築するとなれば、個人情報の把握をいかに行うかという大変難しい壁にぶつかることになる。

 

 

上記では3次施設を持たない奈良県で起きた事例を紹介したが、そうした地域でばかりこのような事件が起きているわけではない。1次、2次施設での分娩の取り扱いが産科医の不足などによって中止になったり、施設が縮小あるいは閉鎖されるという事例が続出しており、結果的に、患者が3次施設(外来も含む)に集中してしまい、妊婦が搬送されてきても受け入れが困難な状況が生まれています。

 

これに加え、総合周産期センターとは違って、2.5次と呼ばれる地域周産期センターには公的な運営補助金等が支給されていないため、同施設が赤字経営を余儀なくされ、規模の縮小を行うという事例が多くあります。

 

 

こうしたことの結果、深刻さの度合いをより一層深めているのが3次施設の疲弊した現状なのだ。一般に医師が充足していると見られる神奈川県や東京都ですら、県外へ母体搬送が行われる事例が起きており、長距離のケースであれば静岡県や長野県にまで搬送することもあるそうだ。

 

1次、2次施設の激減や医師数の不足が周産期医療崩壊の背景にあるのは間違いないが、こうした原因の他に、不妊治療や高齢出産によって起きる多胎出産(双子や三つ子など)の増加を原因とするハイリスク新生児やハイリスク妊婦の急増といった医療需要の変化や、NICUの病床不足などによって体制がこうした変化に追い付かないという問題も厳然としてある。

 

周産期医療施設は常に24時間体制で対応しているわけだが、外来や入院、当直や救急医療までをただでさえ不足したマンパワーで行わなければならず、現在では、常態的に過重な労働がなされ、それに伴って安全管理がおろそかになりつつある。

 

 

また、小児科の場合と同様に、周産期医療施設にあまり緊急性のない妊産婦が搬送されるというケースも増えてきている。こうした一連の事象を医療施設の「コンビニ化」問題ということもある。

 

本来であれば、奈良の妊婦のようなケースに対応するのがこうした施設の役目であるが、軽傷妊婦を安易に搬送するということは、重傷者への対応を後回しにするというリスクを孕んだ行為である。

 

重傷者を対象とした施設に軽傷者が搬送されるということがなぜ起こるのだろうか。訴訟リスクを恐れた開業医が昨今では、異常が少しでも見つかれば患者を同センターに送り込んでくることが原因となっている。

 

 

一般の対応に追われて、本来「緊急部隊」が対処すべき問題に当たれないために、たらい回しということが起きているのだ。こうしたミスマッチは一刻も早く解消しなければならない。また、産科医を相手取った訴訟は100人当たりに1.2人という割合で起きており、非常に高い訴訟リスクがあるのも現状だ。

 

場合によっては、福島県立大野病院で起きた事件のように産科医が逮捕(06年に逮捕されたが、08年の判決で無罪が確定し、医師は復帰した)されてしまうということすら起きている。こうした問題が重なって、医師が周産期医療の現場から離職するというケースが増加し、離職者が更なる離職者を生むという悪しき循環に陥っている。



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